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泣きたいかもしれないし笑いたいかもしれない。
「九郎さん」

「……」



夜風が吹き抜ける、海の上。

暗い闇が空を支配しても明るい月は私たちを残酷に照らしていた。

ゆらりと行く平家の亡命船。

そこに乗るのは、本来平家と敵対していた

龍神の神子と源氏の仲間だった。



「九郎さん…」



もう一度、さびしくかなしい彼の背中へと呼びかけるが

なにもなかった。




彼は源氏の名代、源九郎義経。

その肩書きを知らないものはもはや誰もいない。



血を血で洗い、涙を捨てて

兄のために、源氏の世を創る為に

人を殺し続け 手に入れたものは





恐ろしい程のさびしさ むなしさだけが残った 過去の栄光。






(こんなの、絶対に許されることじゃないよ…)




声にならない胸の奥の叫びは

頭の中に響き渡り、体を駆け巡るだけで

終わってしまった。



代わりに出たものは






「私がいます」






なんと なさけなく たよりない あかごのような ことばだろうか。







「私が、そばにいます」







それでも、足掻いてしまうのは 人間だから。


その証拠が一ミリでも欲しかった。









「ずっとずっと…います」










そんなさびしそうな背中を見せないで…


これじゃあみんなに合わせる顔が無いじゃない


なんて言い訳をしようか?





闇に飲まれて、言葉の一部が失われた。












「…、っ 望美……、」











枯れ果てたその愛しい声で 「望美」と呼んで。


必要として。





そして今度はぎゅっと抱きしめさせて。






月と太陽に、誰が譲るものですか。
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